ユキヒョウのスピカ
2016年4月14日に熊本地震が発生し、熊本市動植物園では獣舎の破損等のダメージが発生したため、福岡県の大牟田市動物園に移動したユキヒョウのスピカ(2005年5月27日生まれ)。その後、スピカは、ハズバンダリートレーニング(動物たちの心身の健康管理に必要な行動を動物たちに協力してもらいながら行うトレーニング)を開始し、2017年3月30日には無麻酔採血に成功しました。
同時に、熊本市動植物園では復興が進められ、2018年秋には熊本にスピカが戻ることに。麻酔をかけてクレート(輸送箱)に乗せることは心身ともにストレスを与えてしまうため、熊本へ帰るときは、麻酔を使わずに自分の足で歩いてクレートに入ってもらえるよう、2018年春からクレートへ続くシュート(動物用通路)を歩くトレーニングを開始しました。
スピカの足あと募金
スピカは、練習でシュートを歩く時に同じところを何度も歩くため「足あと」が取れることを動物園の方が考案。その足あとを使って、野生ユキヒョウの保全活動へのご支援を募ったところ、2018年 4月28~30日と5月 3~5日の大型連休、5月26日に行われた「スピカお誕生日会」で、148,373円もの寄付金をいただきました。
動物園から、野生へ
いただいた寄付金で、赤外線自動撮影カメラを購入。野生ユキヒョウの生息地キルギスタンに持ち込み、近年禁猟区に指定されたShamshy Wildlife Sanctuaryにある岩場や木に設置しました。その結果、野生ユキヒョウの撮影に成功。体毛の模様から、この個体は半年前に撮影された雄個体と判明し、冬場から夏にかけて、ある程度この禁猟区に定住していることが明らかになりました。
赤外線カメラを設置
野生から、動物園へ
赤外線カメラで撮影した映像は、研究に生かすことはもちろん、動物園での教育ツールに。10月21日に大牟田市動物園で行われた「スピでね!(「スピカ、大牟田での生活おつかれさま!一緒に過ごした2年間を振り返るとちょっぴり寂しくなっちゃうけど、熊本に帰っても元気でね!」の略) 開催記念スペシャル講演会「現役ユキヒョウ研究者が今本当に話したいこと」で木下の講演の中で映像を流しました(本ページ上部の「movie」より視聴可能)。
さいごに
「スピでね!」の翌日10月22日に、スピカは普段の練習通り、無麻酔で自分の足で歩いてクレートに入り、大牟田市動物園を後にしました。スピカがハズバンダリートレーニングによって自らクレートまで歩いたことは、大牟田市動物園で過ごした 2年半の集大成に。
また、動物園での取り組みが、野生の保全活動に直接つながった事例となり、スピカの足あとは、野生の生息地Shamshy Wildlife Sanctuaryの調査小屋に今も飾られています。エコツーリズムや保全調査で訪れた海外の方々に、日本の動物園と野生ユキヒョウの保全活動がコラボレーションしたことを伝えています。
「スピでね!」から6年。同エリアで調査を続けた結果、この雄個体の情報が揃ったことから、現地のNGO団体「Snow Leopard Foundation in Kyrgyzstan」が管理する個体識別一覧に登録するため2024年に「OMUTA」と命名しました。これからも「OMUTA」含め、この地域のユキヒョウの調査・研究を進めて参ります。改めまして、「足あとプロジェクト」にご支援いただいた皆さま、大牟田市動物園の皆さま、そして、スピカに心から感謝申し上げます。